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テッサちゃんホームステイ計画
                                       作者 火元 炭
                                       
 
 
 
 
 


 
 
 

朝、いつものように登校しようと部屋を出れば

「?ご旅行ですか?」
大荷物を手に廊下を行く二組の家族、見知った顔だ、五○四号室と五○六号室の住人、宗介の部屋の両隣に当たる場所だ

「え、ええ・・・しばらく家を空けますの」

「お土産の方、楽しみにしていてくださいね」
にこにこと感謝の笑みを浮かべながら宗介に向き直る2人の夫人

「いえ、そのようなお気遣いは」
断ろうとするより早く沈痛な顔で2人の夫が言う

「宗介君、大変だとは思う、だが、がんばりたまえ」

「そう、ただ、若さには気をつけたまえ、後で後悔しても遅いんだよ」
よくは分からないが2人の言葉を激励として受け取り

「御忠告、ありがとうございます、ですが作戦時刻が迫っていますのでここで失礼します、あなた方の旅の御武運を」
敬礼と共に見送り、階段を駆け下りる

(いかんこれ以上かなめを待たせれば・・・)
駆け下りる・・・自由落下とほぼ同速度で、そして三階の踊り場から跳躍、そのまま街路樹をクッションとして着地
可能な限り早く路傍を駆け抜ける
彼が通う学校の近くに京王線、泉川と言う駅がある、そこから学校へはほとんどかからないため多くの通学者が京王線を利用している、結果登校前はかなりの混雑となる、
宗介は人混みが苦手だ、いつ敵が紛れ込むかも知れないのだから、前そのことを友人に話したことがあるのだが、それ以来護衛対称であり級友のかなめは早い時刻の電車に乗ることにしたようだった、何故かと聞けば『何となく』と答えていたが、おそらくは人混みの危険性を理解してくれたからだろう、賢明な処置といえた
だが自分が時刻に遅れれば『低血圧を我慢してやってるのにぃ』と言いながらパロスペシャルをかけてくる・・・やはりよく理解できない
その早い時刻で人混みのない電車はもう来ているようだった、それを逃せば次の快速は30分後・・・その三十分間をパロスペシャルの苦痛に遭わなければならないのだ
駅までは直線距離で200メートル、かなめはこちらに気づいたようで乗るべきか乗らぬべきか迷っている、すでに扉は開いているため30秒と待たずに閉まるだろう
宗介は迷わず速度を上げた、立て看板を飛び越えホームに飛び込むルートを選ぶ、見知った顔の車掌はこのゲームをいたく気に入っているようでおそらく時間になれば迷わず発車し、全ての窓を閉めるだろう、そして最後列からあざけ笑うのだ
見知った駅員は自分を発見したとたん周囲の客に注意を呼びかけだした『危険人物が通ります』と言っているようだ
全てはいつも通り、このペースでかなめを掴んで電車に駆け寄れる確率は高い、だが不確定要素は何処にでもある
目の前を急に横切る乗用車のように

「ぬうん」
一跳び、そして車のボンネットを足場に立て看板に跳ぶ
アナウンスと警告音が流される
看板の頂点を足場に跳び重量不詳の荷物を片手に車内へ

「間に・・・有った」
そしていつものようにかなめの踵落としが炸裂した
 
 

「で?、今日がぎりぎりだった理由は?暴発?不振人物?クルツと朝まで呑んでたっ言ったらもう一回蹴るわよ」
これもいつものように床に正座させられた宗介の前でかなめが仁王立ちする

「うむ、隣の家の者が旅行に行くと言ったので挨拶していたら遅くなってしまった」

「・・・今日の理由はまともね、まぁ許してあげる、にしてもあんたそれぐらいの常識はわきまえてたのね」

「当たり前だ、彼らの荷物の量からしておそらくは爆発物工作、潜入任務と破壊工作を同時にこなしかつ逃亡手段を確保する、死亡率は極めて高い、激励の言葉は当然の義務だろう」
涙ながらに力説する宗介、かなめの額に筋が浮かんでいることに気づいていないのだろうか

「1つ、聞いていいかしら・・・旅行に行ったんじゃないの?」

「ああ、観光客を装い他国に侵入、工作を行う、旅行とはそう言う物だろう」
違う、絶対に違う、だがこいつの常識からすればそれが間違いないのだろう
かなめは溜め息をつき、

「あんたの戦争ボケいっこうに改善されないのね、まぁいいわ、さっさと座りましょう」
開いていた2人掛けの椅子に座るかなめ

「ああ」
宗介も立ち上がろうとし
ぷつんと靴ひもがちぎれ飛んだ
・・・カラスの鳴き声が妙に煩わしかった
 
 

「むぅ?」
始業のチャイムが五月蠅いくらいに鳴り響く、が

「今日は何故こんなに休みが多いんだ?」
全体の半分ほどの机が空いていた、かなめも不思議そうにそれを見る

「キョーコ、何で今日休みこんなに多いの?」
無事登校していた友人の常磐・恭子に話しかけるかなめ

「何か変な病気が流行ってるらしいよ?熱が出てだるくなるやつ」

「風邪?こんな時期に?」

「うん、だからたぶん学級閉鎖になると思うけど」

(細菌兵器の散布実験か?だがそれならもっと大規模に被害が広がるはずだが)
仮想敵が存在すると想定して下校のルートを選ぶ宗介、足下を黒猫が通りすぎていった
 
 

靴ひもが切れる、が無視して歩く、上空から飛来したカラスの糞を避け、黒猫の大行進を蹴散らす、黒いワーゲンに轢かれそうになったのを持ち前の運動神経で切り抜け一陣の風と共に現れた大凶おみくじの群(木に結んであった物がほどけたと推測される)を手近な看板で防ぐ

「何か、不吉な予感もここまで来るとただの喜劇ね」
それを横目に歩くかなめと恭子、宗介の周囲には様々な不吉な予感が束を為して襲いかかっていた
こんな時間に歩く学生に周囲は注目するが、それもすぐに宗介への注目に変わる

「ぬう・・・」
宗介の顔の辺りにアルミ箔が飛んでくる、そしてそれを目がけ飛んでくるカラスの群
とっさにフラッシュグレネードを放ろうとするが

「やめなさいそれは」
横から入ったかなめの蹴りに中断させられる、もっともそのおかげでカラスはやり過ごすことが出来たが、そのまま宗介はペットショップの軒先に顔から飛び込んでしまった

「何潰したの?」
恭子が興味深そうに見るが、それよりも辺りの地響きの方が早かった

「今度は何だ?」
どどどどっと宗介目がけて土煙が近づく

「まさかあれ・・・」
それは眼をハート形にした黒猫の群

「相良君が潰したのマタタビだよ」
その恭子の言葉を最後として、宗介は黒猫の群の中へと姿を消した
 
 

「あんた、呪われてんじゃない?」
ずたぼろになった宗介を見ながらかなめが呟く、隣を歩いていた彼女にはほとんど怪我らしい怪我はなかった

「物的証拠が無い以上何とも言えん、」
帰る途中でカラスの大合唱(運命)を聴いたときにはさすがに彼女も怯えたが、その対称が宗介のようだったので面白く聴かせてもらった

「ふぅん、でも一応運勢はプラマイ無しにしないとね、今日のご飯作りに行ってあげよっか」

「願ってもない申し出だ、是非頼む」

「オッケー、じゃあとでね」
鼻歌交じりに歩くかなめ、宗介もまた上機嫌だ、かなめの料理は文句無しにうまいのだから

「よぅ、機嫌良さそうだな」
だがその笑みが凍りついたように止まった、

「クルツ・・・何の用だ?」
時に背中を預けられる仲間、時に疫病神となる知り合いを怯えの眼で見る、かなめとの約束を急な仕事でふいにされたのは一度や二度ではない

「新たな任務でね、カナメちゃんの護衛を手伝えってさ」
にやにや笑いを浮かべながら言うクルツ、こいつがこういう顔をしているときはろくな事がないが

「助かる、が、何処かが動いたのか?」

「動いたっていや動いたな、世界でも有数の軍事集団が東京に集まっている」

「何処だ?有数というと・・・アメリカか?」
厳しい目でクルツを見る

「ヒントだ、少数精鋭で最新鋭のASを所有」

「・・・ガウルンの背後にいた奴らか?」

「外れ,本拠地は不明、主に潜水艦での移動を好む、当然最新鋭の」

「・・・」
考えるが、そんな部隊は1つしか思い浮かばない

「最近宿舎は雨漏り気味、基地の裏手の洞窟にはアミーゴの財宝」
何というか、その・・・

「うちが集結してるのか?」

「ああ、ミスリルの可動部隊ほぼ全てが東京に集まっている」
全てが出張るような重大な事件が発生した、宗介の額に汗が浮かぶ

「何が起きているんだ?学級閉鎖と関係有るのか?」

「有ると言えばあるな、公正にフェアに行きたいんだってよ」
よく理解できない

「とりあえず自宅に戻れ、そこで説明があるはずだ」
屋外で話すにははばかられる問題か、そう考えた宗介は急ぎ部屋に戻ることにする
階段を凄まじい勢いで駆け上がり
残弾を確認すると共に腕に確かな冷たさを感じる
扉を数度ノックし

「相良・宗介です、入ります」
鍵は開いていたのでそのまま注意深く進む、万一のために懐に銃を潜ませてあるが

「あ、サガラさんお帰りなさい」

「大佐?」
まず目に入ったのはエプロン姿のテッサ、普段結わえてる髪をアップで留め、簡易平服の上に白の、明らかに新品のエプロン、ただでさえ白い肌のせいで境界が取りづらい、ワンポイントは顔が人間っぽい3頭身の犬

(作者一時執筆中断)

「何とか帰ってくるまでにと思ったんですけど・・・難しいですね」
エプロンのあちこちに焦げ後がある

「?トラップの設置ですか?」
宗介のその言葉にふくれっ面で返す

「違います・・・食事の用意をしようと思ったんです」
ふと、宗介の鋭敏な嗅覚に異臭が漂ってくる

「妙な臭いが、急いで外に」

「あ!鍋」
とてとてとキッチンへ走るテッサ、急ぎ宗介が追えば黒い煙を上げる鍋1つ

「キャーキャー」

「大佐、まず火を止めてください」

「は、はい」
急いで火を止めるとふきんの上に鍋を置く

「それはもう処分した方がいいかと」
宗介のその言葉に責めるような眼をするテッサ

「頑張ったんですけど」

「焦げには発癌物質も含まれますし、それに今日は千鳥が食事を作ってくれると言っていましたので」

「・・・いえ、やっぱり頑張ってみます」
かなめの名を聞きかえってやる気をかき立てられたらしく焦げてない部分を別の鍋に取り再び煮込み始める、宗介を向き直ると

「サガラさんは居間の方に居てください」

「あ、いえ、任務の説明の方を」

「居間にいてください」

「はっ」
とりあえず言葉に従い居間に戻れば、そこにはカリーニン少佐とマデューカス中佐が茶を啜っていた

「あ、・・・」
その場で脚を揃え直立不動の構えにはいると2人に向かい敬礼する

「中佐並びに少佐」

「サガラ軍曹、君に今日より3週間新たな任務を与える、これは千鳥・かなめ君の護衛と平行して行うように」
その彼にカリーニンが声をかける、マデューカスは機嫌が悪いらしくこめかみを押さえながら黙っている

「はっ」

「大佐の護衛だ、装備はクラスB、M9とアーバレストを用意しておいた」
大佐、要はテッサの護衛と言うことだが

「・・・大佐は確か休暇中でホームステイの予定があると聞きましたが」

「うむ、今日からがんば・・・ら無くていいから大人しくしているように」
マデューカスの言葉に疑問符を浮かべる宗介

(護衛を頑張らなくていい?どういうことだ?)
下士官には理解できないような深淵な意味だろうとあえて考えないことにした

「M9は分かりましたが、アーバレストもですか?それほど危険な敵だと?」

「敵自体は些細な物だ、問題は・・・まぁ、在った方が便利だと思っただけだ」
つまりは不確定要素が多分にあると言うことだろう、あるいはミスリル内部のスパイをいぶり出す作戦かも知れない

「護衛は私1人ですか?」

「いや、マオ曹長とウェーバー軍曹にも参加してもらう、2人は右隣の家で待機しているはずだ」
旅行に行った二組の家族を思い出す宗介

「我々は左隣の家にいる、では・・・護衛を頑張るように」
そのまま家を出ていく2人
頭に大量の疑問符が浮かぶ、ホームステイしているはずの大佐が家にいることやミスリルの精鋭の集結、少佐や中佐まで滞在するという

「そうか、大佐の知り合いとは・・・このマンションに住んでるんだな」
そして自宅を持つ自分を中心とした防衛布陣を引いた・・・そう考えた宗介はいったんテッサの元に行くことにする、その家までの護衛のためだ

「大佐、失礼します」

「あ、ちょっと待っててくださいね、もうちょっとで・・・」
鍋を前に真剣な表情で何らかの薬品を調合するテッサ、材料は調味料だけのようだが・・・何故紫色の液体になっているのだろう

「後はこの煮汁を入れて・・・」
火にかけていたわけでもないのに沸騰する煮汁(紫)を鍋に入れる、その瞬間ぼんっとすごい音と共にどくろ型の煙が上がる

「こ・・・これで完成のはずです、後はしばらく寝かせて置けば・・・それでサガラさんなんですか?」

「大佐の護衛を任ぜられましたので、とりあえず宿泊先に送ろうかと」

「?カリーニンさん何も言わなかったんですか?」

「はぁ、大佐の護衛としか」
しばし考え込んだ後で説明しようと顔を上げ、ドアのチャイムが鳴る

「大佐、しばしお待ちを」
銃を片手にドアに近づくと覗き窓から外を見る、そこには買い物袋を持ったかなめの姿
背筋を冷や汗が流れる、理由は分からないが・・・嫌な予感がする

「どなたですか?」
そんな宗介の苦悩を何ら気にすることなく横から扉を開くテッサ
対面するテッサとかなめ

「カナメさん、こんにちは」
にこりと笑うテッサ、その笑みをクルツ辺りが見れば底冷えするような笑みと称しただろう、すなはち・・・恋敵に対する不適な笑み

「こんばんは・・・」
さすがに呆然とそれを見るカナメ

(激突かぁ、どっちが勝つと思う?)
隣の家の覗き窓からファイバースコープを突きだしそれを見るクルツとマオ

(今んとこはテッサかな?)

(確かに、戦術的優位に立ったって所か、)

(にしても、あの子も以外と積極的ね、ソースケの腕でも取れればもっといいんだけど)
向かい合うかなめとテッサ、2人の目にはバックに雷雲走り、竜虎相打つの掛け軸が映し出されていた
それとは逆側で

(少なくとも、艦内では見られなかった表情だな)

(たまには普通の少女にもなりたいのでしょう)

(だが、万が一にも貴重な人材を失うわけにはいかん)

(・・・ま、押し倒す可能性は皆無だと思いますけどね)
同じように2人の様子を見ながら嘆息する2人、カリーニンとマデューカス
それ以外にも多数の眼で見張られる中で

「ソースケ・・・何でテッサがここにいるのかしら?」
にこにこと笑いながら宗介の方を向くかなめ・・・眼が笑ってない

「いや、その・・・護衛が」
脂汗を冷たく感じながらもそれが感じられなくなるほどの恐怖に襲われていた、いかなる窮地に置いても自己を統制できる精神力もこの状況では何の成果もあげなかった

「ホームステイです、今日からしばらくサガラさんのお宅にお世話になるんです」
慌てて宗介がテッサを向き直るがそんなことお構いなしにかなめを見るテッサ

「・・・独り暮らしの男の家にホームステイ?それって同棲って言わないかしら」
かなりの刺々しさを含む皮肉をきつい口調で言うかなめ、目が据わっている

「知ってます?ここは<ミスリル>のセーフハウスなんです、<ミスリル>の資産で購入したんです・・・そして、ここの家主は何故か私の名前で登録してあるんですよね」
同じような眼で挑戦的にかなめを見るテッサ

「あら、ひょっとして男の子を囲ってるって事かしら?」

「ちなみに、現在サガラ軍曹は私の護衛任務にあります・・・保護されているのは私だと思いますけど?」
火花散る女の争いにぽつんと取り残された宗介

(何故こんな事になったんだ?)
いくら考えても答えが出るわけではない、いつもならすぐに答えてくれるクルツは現在傍観者となっている

「ソースケ・・・ご飯作ってあげる約束したわよね?」
ぎぎぎっと首を90度ねじって宗介を振り仰ぐかなめ

「私もサガラさんにご飯作ってあげたんですよ」
同じく90度首をねじり宗介を向くテッサ

「さっ、ご飯にしましょうサガラさん」

「ソースケ、私もあがってもいいかしら」
お昼時というのに中点に日は陰り強風吹き荒れる共通廊下、虎となり大地に伏せながらも喉を狙うテッサと(オプションとして生け贄の兵卒(当然宗介)が十字架にくくりつけられている)龍となり雷と共に虎を威嚇する龍
まぁ、現実には宗介の腕を取ったテッサとかなめが睨み合っていると言うだけだが、女の戦いは時に常軌を逸することもある

「ボルシチを作ってみたんです、食べてもらえますよね」

「ソースケ、あがっていいのかいけないのか、どっち?」
今までにない恐怖、それまでにない緊張感に怯えを隠しきれない宗介
そして・・・
バタンと音を立てて昏倒した、その首筋には一本の吹き矢

(後でテッサのボルシチ分けろよ)
突然倒れた宗介を看ようと近づき、再び睨み合う2人、結局宗介は2人の話し合いが一段落する夜更けまでそこで寝かされていることになった・・・
追伸、テッサのボルシチは冷蔵庫で熟成されることになりました・・・朝食が楽しみですね
 
 
 
 
 

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ついしん・・・さいごがかなり無理のある終わりかたをしているのは、お酒のせいです・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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